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Good Lick Newsletter

宇田和弘の音楽日誌のようなコラムです。ご愛読いただければと…。

#62005. 11. 16

2005年版:宇田のやってた“あんなこと”や“こんなこと”一挙公開

  11月12日のライブが終わりまして、脱力気味にまったりと原稿書いたりしてるんですが、気づいてみれば、今年もあとひと月と半分じゃありませんか。すっかりご無沙汰更新になりましたが、ここらで宣伝を兼ねまして、一体、宇田は2005年に何をやっていたのかということをまとめてみたい。そうしないと来年の仕事が来ない(笑)。「宇田さん、ホームページあるんだから、ちゃんと紹介してくださいよ」なんて、版元の編集者によく言われるんですね。そりゃ、もっともだ。というわけで、ちょっと長くなりますが、このHPの更新が滞ったあたりから始めましょうか。
  05年は編集がらみの仕事が特に多かった。編集って、面倒なんですよね。それがイヤでフリーになったはずなのに、それでも昔とった杵柄というか、やってるとアツくなってくる。原稿の遅い奴には電話で怒鳴ったり、罵倒メールを出したり、だんだん人間性も崩壊してきて、限りなく動物に近くなったりします。その餌食になった人にはこの場を借りて陳謝。
  で、5月あたりから編集に取りかかったのが、右のビンテージ・ギター別冊『The Martin Sound』 (竢o版社)。マーティンのドレッドノート・タイプ、つまりD-18、D-28、D-45とかDタイプのアコースティック・ギターに絞って、そのプレイヤー、名盤、サウンドなどを紹介するというものです。クラレンス・ホワイト、ニール・ヤング、ベック、ビートルズからハンク・ウィリアムスまで、じつに多彩な本(ムック)になりました。私と編集タッグを組んだのは、根津閑也さん。これ、ペンネームですが斯界では有名な、ギタリスト/ヴォーカリストの方です。
『ザ・マーティン・サウンド』(竢o版社)
8月10日発行
1800円+税

  それが終わって、息つくひまなく、単行本の執筆にとりかかりました。ロックやポップスのアーティストがスタンダード・ナンバーを歌うケースってよくありますよね。リンダ・ロンシュタットとかね。私の場合はニルソンの『夜のシュミルソン』からその道に入りましたが、そういうヴァージョンやアルバムを一挙に紹介しようというガイド本企画です。杉原志啓さんから声をかけていただき、私と二人の共著という形で、学研の200CDシリーズ『ニュー・スタンダード 200CD』として刊行されました。
  なにせ曲が古いですから、オリジナルのネタや各種ヴァージョンも調べねばならず、苦労したというか、じつに勉強になりました。リンダ、ロッド、ジョニ・ミッチェルなんかは当然入ってますが、ジェフ・マルダーとかジェリー・ジェフ・ウォーカーとか、ジョン・ミラーなんかももガンガン入れて、ベタな企画のようでいて、ベタでない。つまり私の個人趣味も爆発してるわけです(笑)。単行本なので、買っていただけると私に印税が入るという、大変結構な仕組みにもなっております。
『ニュー・スタンダード200CD』(学習研究社)
杉原志啓・宇田和弘著
10月1日発行
2100円+税

  さらに夏が終わりに近づくと、鈴木カツさんの音楽対談集の取材・構成をするという仕事を仰せつかりました。カツさんとはもうかれこれ30年もお付き合いいただいてる仲ですし、私にとっては米国ルーツ音楽の大師匠。カツさんと、各界10人のお仲間との洋楽にまつわる対談10連発です。題して『洋楽で育ったぼくらの話』。竅iえい)出版社の笊カ庫での刊行です。登場ゲストは、萩原健太、木滑良久、なぎら健壱、南佳孝、宮治ひろみ、鈴木惣一朗、沢野ひとし、山内雄喜、本秀康、ダグラス・アルソップのそうそうたる各氏(敬称略)。私も個人的に知ってる方が多く、とても楽しい取材になりました。本秀康さん取材時のビートルズ〜ジョージ・ハリスン話には、ガマンできずに私も参加してます。マニアックだけど気軽に読めて面白く、音楽的にはとても幅広くてタメになる、近年まれな良書だと思います。ただ、この本は編集のスケジュールがキツかった〜。こんどはもっとゆっくりやろうよ。>竢o版のヤマダ君。
『洋楽で育ったぼくらの話』(笊カ庫)
鈴木カツ編
11月30日発行
680円+税

  そんなこんなの中で、同時進行していたのがこの本。じつは夏になる前から企画・編集に参加してたのですが、刊行が一番最後になったのは、私のせい? もう、とにかく謝っておきましょう。スミマセンでした。
  で、その『音楽がわかる世界地図』は、とにかく世界の音楽やミュージシャン、音楽事情を、何でもいいから地図上で紹介しようという、じつに乱暴で大風呂敷な企画なんですが、出来てみると、これが結構面白い。マジな音楽紹介ネタ、トリビア系ネタ、爆笑ネタが入り乱れて、もう混沌としている。そこがこの本のよさであり、早い話が、それが世界の音楽の現実でもあるでしょう。
  ビギナーの人でも誰でも、手っ取り早く、とっつきやすく、というのが当初の企画意図だったと記憶してますが、決してそういうふうには作れなかったはずなのに、結果的にそういう本になっている。これが不思議。運動会の鈴割りの鈴が一気にはじけたような楽しさがあります。トイレに常備して、拾い読み。これが正しい読み方と言えるかも。ワールド・ミュージック色はそんなに強くありません。フツーのロック、ポップス・ファンが楽しく読める本。
『音楽がわかる世界地図』(ロコモーションパブリッシング)
世界の音楽編集部編
12月10日発行
1500円

  …というような編集系仕事をしながら、音楽雑誌の原稿やCDのライナー書いたりの通常業務(?)を していた1年でした。そう書いちゃうと、ずいぶん仕事してたように思われるかもしれません。私も今になって、そう思う。が、ゼーンゼン儲かっていないのはナゼ? と、ぼやきつつ、来年も原稿書いたり、本作ったりしてると思います。来年は冬季オリンピックがあるし、ワールドカップもあるし、原・巨人だし、松井は必ず観るし、仕事とどう折り合いつけるかが課題ではありますが…。 



#52005.03.08

キミにもできる!“Countryside”レーベルのコンプリート・コレクション

  世の中にはすごいレコード・コレクター諸氏がゴロゴロいて、実際にブルーノート完
全コレクションを達成している人など、何人もいる。レーベル単位で完全制覇なんて、
じつにカッコいい。一度でいいから棚にレコード番号順にLPを並べてみたいなあと、
私も常々憧れているわけです。70年代に、ラウンダーとかフライング・フィッシュのア
ルバムを片っ端から買っていたころ、ひょっとしたら出来るんじゃないかと思ったことも
ありますが、結局はザセツしますね。確か15、6枚しか出ていないラクーン・レーベル
(ヤングブラッズのレーベル)でさえ、いまだに抜けがある…。レーベル単位でコレクシ
ョンすることの難しさを痛感します。要は根気なんですけど。
  で、こないだ当掲示板で、マイケル・ネスミスの話が出た
ときに、ふとレコード棚に目をやったんですが、ネスミスの
隣にあるレコードを見て、おお、オレもこのレーベルは全部
集めてるじゃん、と気がつき、悦に入ったものです。それ
が、ネスミスが設立した“カントリーサイド”レコード。何せ
LP2枚しか出ていないわけですから、簡単。私の場合も、
知らん間にコレクションが完成していたわけです。
click to enlarge
  そのカントリーサイドは1973年初頭、マイケル・ネスミスとエレクトラ・レコードの創立者にして社長であるジャック・ホルツマンが意気投合して設立したレーベルと言われています。どういうふうに意気投合したのか興味があったので、ホルツマンの回想録“Follow The Music”を取り寄せてみたのですが、触れられているのはほんの2、3行で、よくわからない。ただ、ホルツマンは「ほとんどリスクのない、いい話だった」としており、仲のよかったネスミスに軒を貸したということなのでしょう。
  まあ、そうしてエレクトラの配給のもと、カントリーサイドがスタートするわけですが、ところが同じ年の秋、ホルツマンはエレクトラを完全にワーナーに売り払ってしまい(それ以前からワーナー傘下となってはいましたが)、カントリーサイドは1年も持たずに幕となってしまいます。
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Garland Frady / Pure
Country
(Countryside CS-101)
  そして残されたのが2枚のアルバム。その第一弾が、ーランド・フレイディの“Pure Country”。ネスミスのプロデュースで、彼好みのシンプルなカントリー・ロックが聴けます。ケイシー・ケリーの「ア・グッド・ラヴ・イズ・ライク・ア・グッド・ソング」、ネスミス&ファースト・ナショナル・バンドのヒット「シルヴァー・ムーン」、ジェシ・ウィンチェスターの「ブランド・ニュー・テネシー・ワルツ」など、いいですね、選曲が。ところで、このガーランド・フレイディという人、60年代末から70年代初頭、ドットやGNPクレッセンドでレコーディング・キャリアがあり、南カリフォルニア、LA周辺では、ノース・ハリウッドのパロミノなどで、結構活躍していた人らしい。ナッシュヴ
ィル・ウェストのウェイン・ムーアも70年代の一時期、彼のバンド・メンバーだったようです。やがてナッシュヴィルに移り、パフォーマー兼ソングライターとして活動。引退同然の時期もあったようですが、自主制作のCDを販売したり、バンドを率いてライヴ活動を続けたと言われます。しかし昨04年5月亡くなったとのこと。近年のソングライターとしてのデモ録音が、下記のサイトで試聴できます。
http://www.aaronrecords.com/aaroneightcomp.html
  さて、もう一枚の方は、もう少し知られたアルバムと言え
るかも知れません。レッド・ローズの“Velvet Hammer In 
A Cowboy Band”で、彼はカントリー・ロック・ファンがよく
知るペダル・スティール奏者。マイケル・ネスミスのファー
スト・ナショナル・バンド、ジェイムス・テイラーの『スウィー
ト・ベイビー・ジェイムス』での快感なトーンを覚えている人
も多いと思います。また、自身の工房を持ち(ジャケット写
真のとおりですね)、“Velvet Hammer”なるピックアップを
開発。アンプの改造にも定評があり、多くのミュージシャ
ンの信頼を得ていたようです(Tremolochamps氏のペー
ジに、より詳しい記述があります)。前述のガーランド・フ
レイディも、ローズが結成していたB-Bandのメンバーだっ
たとか。惜しむらくはローズ氏も95年8月に亡くなっていま
す。
click to enlarge
Red Rhodes / Velvet
Hammer In A Cowboy
Band
(Countryside CS-102)
  カントリーサイドの2枚は、どちらもネスミスがプロデュースした彼の関連人脈のアルバムであり、バックアップのミュージシャンも、ギターのジェイ・レイシーとボブ・ウォーフォード、ピアノにデヴィッド・バリー、ベースにビル・グレアム、ドラムスにダニー・レインと共通メンバーが多く、この点でトップ・ページの“Almost Recommended”で紹介しているネスミス制作によるイアン・マシューズのエレクトラ盤『ヴァレー・ハイ』にも似ていますね。もちろんサウンドにも共通するものがあります。カントリー・ロック、それもネスミスにシンパシーを感じる人なら、カントリーサイド盤は見逃せないはず。わずか2枚ですしね。もちろんCD化はされてませんが、まだ比較的安く手に入りますから…。それと申し遅れましたが、ジャケの撮影はどちらもあのノーマン・シーフなんですね。
Frummox / Here To There   ところで左の写真の人、覚えてます?  スティーヴン・フロムホルツというテキサス・フォークの草分けのひとりですが、じつはこの人も73年にカントリーサイドでアルバムを1枚作っているんです。しかし完成していたにもかかわらず、レーベル消滅のため、リリースされなかった。こんにちも未発表のままになっている。タイトルは“How Long Is The Road To Kentucky”だったそうです。彼はのちの76年にキャピトルから“A Roumor In My Own Time”でソロ・デビューにこぎつけています。左に挙げたアルバムは、69年に彼が
コロラドに住んでいた時代、ダン・マクリモンと組んでいたFrummoxというフォーク・デ
ュオのアルバム“Here To There”(Probe CPLP4511S)。レッド・ローズらをバックに
したネスミス・サウンドのフロムホルツの音が残っていれば、ぜひ聴いてみたいところ
です。


#42005.02.07

ビートルズ・ポリドール盤”を もう少し掘り返してみると…

  早くも更新! というのも、モノがビートルズですからね。もうちょっと掘り下げてみな
いと失礼かなと…。というわけで、前回の疑問の焦点はビートルズ参加の62年5月
24日の録音にあるわけですが、そのうち「スキニー・ミニー」に関しては、トニー・シェ
リダンの思い違いか、ほぼガセと見て間違いないことを付け加えておきます。最近は
シェリダンはこの発言を引っ込めているようです。
  それとビートルズがコーラスを付けた「スウィート・ジョージア・ブラウン」ですが、この62年オリジナル版(シェリダンが歌詞を変えていないもの)を手っ取り早く手に入れるには、DVD『ビートルズ・ウィズ・トニー・シェリダン』(ユニバーサル)をお薦めします。これはハンブルグ時代のビートルズに限定したドキュメンタリーで、残念ながら“動くビートルズ”は一切ないのですが、シェリダンはじめ、当時のマネージャーのアラン・ウィリアムズ、クラウス・フォアマン、アストリッド・キルヒヘルなど、貴重なインタビュー証言と写真が満載されています。楽曲はもちろんビートルズと無関係のものも混じっていますが、すべてフル・コーラス版が収録されているのが有難い。「ジョージにはリード・ギターを弾かせなかった」「“Nobody's Child”のギターは、私がとった最悪のソロ」などのシ
The Beatles with
Tony Sheridan
(DVD)
ェリダンの発言は面白いです。くだんのソロは長年ジョージと信じて疑わなかった私としては、タメになる発言でした。ただシェリダンの記憶にはあいまいな部分もあり、いくつか混乱を生じるきらいはありますが…。

From Cavern to
StarClub (Book)
  では、ビートルズのポリドール録音に関して、最も信頼できる資料はあるのかと言いますと、一応、定本があるんです。スウェーデンの研究家Hans Olof Gottfridssonという人が書いた“The Beatles - from Cavern to Star Club”(英語版)という本で、結成以来のセッショングラフィを、よくぞここまで、というくらいに集大成したもの。ポリドール録音ももちろん完全網羅しており、これをスタンダードと考えていいでしょう。しかし、担当楽器等の特定にはいくつか疑問点を残す…、というのが私の個人的な見解なのですが…。まあ、そんなミステリアスな部分があるからこそ、ポリドール録音は楽しいんですけどね。
  この本は97年に出たものなのですが、これをもとにポリド
ール録音をビートルズが参加したものに限って編集したも
のが、あのドイツ、ベア・ファミリーがリリースした豪華ボック
ス入りの2枚組CD“Beatles Bop: Hamburg Days”(01年)と
いうわけです。これには前述のGottfridssonが新情報も交
えつつ、詳細な解説とデータを記した本が付いており、モ
ノ・ステ両ヴァージョンはもとより、珍しい編集ヴァージョンな
ども聴くことができます。本付きなので、かなり割高なのが
玉にキズ。本を簡略化したプラケース+ブックレット版も出
ています。

Beatles Bop: Hamburg
 Days■■ (CD+Book)

Les Beatles :
Enquete sur un
mythe (Book)
  さて、そこで問題になるのが、62年5月録音のうちの残る1曲
「スワニー・リヴァー」です。これは前述のベア・ファミリー盤にも収
録されているのですが、どのLPやCDにも入っているヴァージョンと
同じで、果たしてこれにビートルズが本当に参加しているのか?  
という疑問が誰しもフツフツと湧いてきます。その弱点を突いたの
がフランスの研究家、Eric Krasker という人。彼は彼で、独自にド
イツに乗り込み、詳細なリサーチの結果、「スワニー・リヴァー」は
確かにシェリダンとビートルズによって62年5月にレコーディングさ
れたが、このヴァージョンは一度もレコード化されないまま紛失し、
現存しないという結論を導き出しています。その研究成果を“Les 
Beatles : Enquete sur un mythe (1960-1962)”という本に著し、
2003年に刊行。フランス語の本なので読んでませんが、いずれは
英訳されるのでしょうか?
  そんなわけで、定説はあれど、まだまだ謎の多いポリドール・レコーディングなのです。じゃあどれを買えばいいの? ってことになりますが、ビートルズ参加ものに限って言えば一応、ベア・ファミリー盤で完璧ということに…。しかし、ハンブルグ時代のビートルズとその周辺シーンを俯瞰するには、トニー・シェリダンの数々のレコーディングも欠かせない。前回紹介した『ビートルズ・ファースト』のデラックス・エディションは、近々日本盤も出るというし、入門編としては手ごろなのではないでしょうか。DVDもとても面白い。うーん、EMIデビュー前からなかなか抜け出せない私です。

*このページをご覧になった方から、Eric Kraskerの“Les Beatles : Enquete sur un mythe (1960-1962)”の英訳本が、2005年秋に刊行される予定という情報をいただきました。どうもありがとうございました。


#32005.02.03

やめられない、止まらない“ビートルズ・ポリドール盤”の日々

  当サイトにいらっしゃるみなさんの中には、ビートルズ・ファンの方もたくさんいらっしゃると思いますが、私ももちろん、その端くれであります。まあ、ハッキリ言ってビートルズで育ったようなものです。もうメンバーの半分が鬼籍に入ってしまったのに、彼らの音楽が今もインスピレーションを与え続けているのはとても嬉しいことですが、しかし「ジョン・レノン・メモリアルに加藤登紀子が出た」とか、「出演者が歌詞カード見ながら“イマジン”歌ってた」とかいう話を聞くにつけ(私はそういうTVは絶対に観ない)、じつに暗澹たる気分になってくるわけです。
My Bonne b/w The Saints   そんな時、私はそういう奴らが絶対に聴かないようなビートルズを聴いて、ストレスを発散させます。何を聴くと思いますか?  EMIデビュー前のポリドール盤ビートルズなのです。そう、「エイント・シー・スウィート」とか「クライ・フォー・ア・シャドウ」。もっともポリドール録音にはビートルズだけの演奏というのは前記2曲しかなくて、あとはトニー・シェリダンのバックをやったものなのですが、そのトニー・シェリダンがらみの「マイ・ボニー」なんかも
好き、というか、かなり、いや相当、好きなのであります。もっと正直に言うと、ポリドール録音のフェチなのです。邪道か? まあ、笑いたい奴は笑っても良いよ。
  よく思い出せないのですが、最初に買ったビートルズのシングルは「ツイスト・アンド・シャウト」なんだけど、次かその次に手に入れたのは「マイ・ボニー」ではなかったかと思う…。エッフェル塔を背景にジャンプしてるジャケット写真(つまりセカンド・プレスですね)にひかれて。あの頃、ビートルズのシングルでジャケットがカラー写真というのは他になかったんです。今から考えると、あれは人工着色かも知れんな、というのはありますが…。
  そんなこんなで、先日も『ビートルズ・ファースト』のデラ
ックス・エディションがヨーロッパ盤で出たので、即購
入。CD2枚組の豪華パッケージで、Disc1がステレオ、
Disc2がモノ。それぞれに「マイ・ボニー」の、ジャーマン
&イングリッシュ・イントロ付きの両ヴァージョンなどがボ
ーナスで入ってます。音質もこれまでのものより格段に
良かった。ああ、幸せだ。「マイ・ボニー」のギター・ソロ
(長年偏愛中!)は絶対にジョージじゃなくてシェリダン
だな、ウンウン…なんて悦に入っているわけです。
  なんでそんなにポリドール盤が好きなのかというと、ひ
とつは、概ねカヴァーものだということ。素晴らしいオリ
ジナルを書いてヒットを飛ばす前の、まだアマチュア〜
セミプロ気質の残っている時代のビートルズ。ベルト・ケ
ンプフェルトからレコーディングのオファーを受けて、喜ん
でスタジオに馳せ参じるビートルズ。これは貴重でしょ
う。つまり、自分と似たような平面上にいる(もちろん私
よりは遥かに素晴らしいですが)彼らを発見するからな
のです。もちろん彼ら初のオフィシャル・レコーディングで
すしね。

The Beatles' First
featuring Tony Sheridan:
Deluxe Edition
*Polydor 0624-982132-3
●元は64年ドイツ発売の
LP。イギリスでは67年にリ
リースされた。当然ビートル
ズとは無関係のトラックもあ
り。
  もうひとつの理由は、レコーディング・
データによくわからない部分が多いとい
うこと。これが想像力を掻き立てる。マー
ク・ルイソンの本以来、定説が確立され
てしまったEMI録音よりは夢があると思
いませんか? とりあえずこれまで判明
しているビートルズのドイツ・グラモフォ
ン(ポリドール)録音を右の別表に整理し
ておきましょう。●印はビートルズ単独、
◎はトニー・シェリダンのバックを付けた
レコーディングです。
Rec.1961.06.22-23
●Ain't She Sweet
●Cry For A Shadow
◎My Bonnie
◎The Saints
◎Why
◎Nobody's Child
◎Take Out Some Insurance On Me

Rec.1962.05.24
◎Sweet Georgia Brown
  62年の「スウィート・ジョージア・ブラウン」のセッションにはロイ・ヤングという人のピアノが入ってます。これは64年、シェリダンがヴォーカルを入れ直し、歌詞にビートルズの名前を登場させています。またこの時録音されたシェリダンの「スワニー・リヴァー」にもビートルズが参加したとする説が根強くあります。これはシェリダンが同セッションで「スワニー・リヴァー」と「スキニー・ミニー」も録音したと言明しているためですが、ただ現存する「スワニー・リヴァー」も「スキニー・ミニー」も、どうもそのようには思えません。
  また、ジョン・レノンはインタビューで、ビートルズ単独のポリドール録音は他に3曲あると発言しており、それを受けてシェリダンは、その3曲とは「ロックンロール・ミュージック」「カンサス・シティ」「サム・アザー・ガイ」だったと特定しています。うーん、そうなのか。これは聴きたい。しかし61年と62年のオリジナル・テープは焼失してしまったとのこと。これまで一切、世に出ていないことからも、今後も望みは限りなく薄いと言わざるを得ませんね。
  まあ、ポリドール録音のLPやCDを何度買っても、似たような編集のものしか出てこないのですが、それでも買うんだな、これが。一縷の望みを捨ててない。何かとんでもない音源が混じっているかもという、淡い期待を抱きつつ、手にするわけです。そうするうちに、トニー・シェリダンに妙な愛着が湧いてくるのを止められない…なんて、本末転倒の私です。いずれにせよもっと詳しい方、ご教示を。

Tony Sheridan / My Bonnie (1962)

●SheridanのファーストLP。RepertoireからCD化された。
The Beatles / Ain't She 
Sweet (1964)

●ポリドール音源収録の
米アトコ盤。スワローズと
いうよくわからないビート
ルズ・カヴァー・バンドとの
カップリング。私も所有
(自慢)。
The Beatles First (CD)
(1984)

●初めてCDとなったポリ
ドール音源。ジャケにリン
ゴが写っているので、の
ちに差し替えられた。




#22005.01.10

The Players Live in Nashville”で歴史的「険悪」ギター・バトルを目撃!

  トップページの“Almost Recommended”で紹介しているDVD
『プレイヤーズ・ライヴ・イン・ナッシュヴィル』ですが、年明け
早々、ついに届きました。やれやれ、ようやく追いついた。アメリ
カ盤ですが、リージョン・フリーなので、みなさんもぜひどうぞ。内
容は保証します。素晴らしい演奏です。
  観客を前にした、おそらくはTV放映用のライヴ映像で、本編1
時間足らずの、やや短くも思える収録。ゲストとしてトラヴィス・トリ
ット、ピーター・フランプトン、ショーン・コルヴィン、ホーン奏者のジ
ム・ホーンらが登場し、和気あいあいながらもじつにタイトな演奏
を繰り広げます。そうした歌伴の素晴らしさを披露する一方、プレ
The Players Live in Nashville (Image Entertainment)
Vince Gill : photo from back cover イヤーズだけの超絶インストゥルメンタルもありという構成です。
  しかしその中でただひとり、ゲスト出演というよりも、勝負しに来てる奴がいるんですね。それが左の写真の男、ヴィンス・ギルなのです。この写真は笑ってますが、これはこのライヴの中ではほんの少しだけ見せる営業用スマイルでして、ほとんど終始、不機嫌そうに鋭い視線を投げかけている。その向かう先は、プレイヤーズの若
き達人ギタリスト、ブレント・メイソンなのであります。間違いないです。
  ご存知のように、ギルはカントリー歌手として成功する一方、アルバート・リー直系のスタイルが看板の超絶ギタリストであり、本編の収録時も自慢のヴィンテージ・テレを抱え、歌いに、というよりも、まさしく“弾きに”来ているのです。そして、一丁、目にもの見せてやるとばかりに歌うのが、代表曲のひとつにして空前のギター・ソロをフィーチャーする「ライザ・ジェーン」です。これがまた、レコーディング・ヴァージョンをしのぐ出来ばえ。やっぱりギルは凄いやと思っていると、間もなくブレント・メイソンにソロが回ってくる。ギルのソロはアルバート・リー系で、いわば70年代〜80年代スタイルの完成型といえるものですが、メイソンはこれに対し、先輩に花を持たせるどころか、ムキになって応酬。圧倒的にモダンというか、トリッキーなフレーズを織り込みながら、ギルのお株をあっという間に奪ってしまう。メイソンのソロが終わると、ギルはメイソンにアイ・コンタクトをし、一瞬だけ微笑みますが、これがもう完全な社交辞令。すぐにプイと目線を逸らし、マイクに向かって歌い始めます。
  この曲には終盤にもう1回ギルのソロがあり、たぶんギルは歌っている間、次はどんなフレーズでいてこましたろか、と思っていたに違いありません。しかし、次のソロはワン・コードのパートで、展開が単調な分、そしてメイソンのソロをきいたあとの焦りもあってか、ギルにとっては痛恨の不完全燃焼に終わります。
  次なる第2ラウンドも修羅場です。曲はプレイヤーズの代表的な
オリジナル・インスト「ドント・トライ・ディス・アット・ホーム」。12小節
のブルース形式なのですが、やたらアップ・テンポで、ジャズ/フュ
ージョン風のコード・チェンジとブレイクがあり、いわばギルは他流
試合に引っ張り出されたようなもの。案の定、テーマ部ではギル
は何もすることがない。しかし、この曲は中間部にスロー・ブルー
Brent Mason : photo from back cover
スにシフトチェンジする個所があり、そこをギルが担当。いやはや恐れ入りました級の、素晴らしいブルース・ギターを聴かせます。しかし、曲は元のアップ・テンポに戻り、再びメイソンの超絶リフの独壇場。この出演は、ギルにとって完全にアウェイ・ゲームとなって幕。憤懣やるかたない表情が見て取れます。
  カントリー系のギタリスト共演というと、チェット・アトキンスとレス・ポールのアルバムに代表されるように、爽やかな交歓の場という印象がありますが、こういうのもあるんですね。清々しいという印象では決してありませんが、最高に面白い! 何度も繰り返し見ては楽しんでます。いやー、どっちも本当に上手いです。 
Mingus at Carnegie Hall (Atlantic)
  余談ですが、ジャズの世界では壮絶なバトルがいくつ
もあって、マイルスとモンクの喧嘩セッションは特に有名
ですが、最後にひとつだけ、とびきり面白いのを紹介して
おきましょう。74年の『ミンガス・アット・カーネギー・ホー
ル』がそれで、ジョージ・アダムスの奔放なソロに尋常で
ない闘志を燃やしたローランド・カークが、自分にソロが
回ってくると、タメにタメた感情を一気に噴出。キレた暴
走族のような手のつけられない状態になってしまうとい
う、語り草のライヴ盤があります。この手が好きな人には
ぜひお勧めしたい。ハッキリ言って、笑えます。



#12004.12.20

PP&Mボックス『キャリー・イット・オン』に、はからずもマジになる…

12月のライブの少し前まで、つまり、ほぼこの秋いっぱい、ピーター・ポール&マリ
の4枚組CDボックス・セット『キャリー・イット・オン』の解説書の仕事にかかりきりで
した。このボックスは04年2月にアメリカ盤が出たのですが、その国内盤がリリースさ
れることになったのです。
  で、日本語解説を僕が担当することになったのですが、オリジナルの英文解説の
内容が素晴らしく、その全訳を載せようということになりました。しかし、これがとてつ
もない長文のうえ、かなりマニアックな内容、誰か適任者は?ということで思いつい
たのが、河谷徹孝です。「なあんだ、内輪の…」というなかれ。彼は英語堪能なうえ
に、高校時代からのPP&Mフリークであり、現在もPP&Mバンド“Heart Stream”で活
動中。結果として、自分で言うのもナンですが、すごいものができてしまいました。な
んと、日本語解説書は120ページにもなりました。ボックスの内容について詳しくは、
こちらをご覧ください。
  PP&Mというと、「ああ、あの60年代フォークの…」というのが大
方の反応と思いますが、CDボックスを聴き、またオリジナルの解
説を読んでいて、改めていろんなことを思いました。僕はビートル
ズもPP&Mもほぼ同時期に聴いてしまったのですが、PP&Mのデ
ビューした62年は、まだビートルズがアメリカに上陸する前なんで
すね。つまり、フォーク・ミュージックが音楽シーンの先端だった。
中でもPP&Mは3人それぞれの個性が際立っていながら、その上
で、特異なハーモニーを生んでいました。それと、彼らは成功した
トップ・グループでありながら、徹底した行動主義を掲げ、公民権
運動はじめ、さまざまな社会運動の先頭に立ちました。こうした
彼らのスタイルと姿勢が、60年代後半のカウンター・カルチャーの
アイデンティティを育んでいったことがわかります。
Peter, Paul & Mary / Carry It On
from back cover of Carry It On    そんなことを考えながら仕事を進めました。そうすると、自分にとってこれはもう“懐かしのモダン・フォーク”の仕事ではなくなってきて、彼らの音楽をどう正確に伝えるかという、やり甲斐のある宿題になってしまいました。原文の解説が素晴らしいので、僕は主に曲目の解説に徹しましたが(それでもシークレット・トラックやボーナスDVDを含めると100曲近く!)、PP&Mが元にした原ヴァージョンや古いバラッドなど、逐一さまざまな音源や文献にあたるという作業を行ないました。いやもう疲れた…、というのも本音なら、やって良かったというのも実感です。それとなかなかこうした音楽がリリースされにくいご時世、ワーナーミュージックの担当者にも感謝です。お陰でいい仕事ができたと思います。
   国内盤『キャリー・イット・オン』は、04年12月22日発売。もうすぐですね。アメリカの輸入盤に前述の120ページの日本語解説が付いていて、それらを日本独自の紙ケースに収めた仕様です。ボーナスDVDの映像は、すでに発売されているDVD『キャリー・イット・オン〜PPMの軌跡』(こちらの解説は鈴木カツさんが執筆)とほとんどダ
ブリません。また、バリー・アルフォンゾの書いた原文解説は、04
年度のグラミー賞の“ベスト・ライナーノーツ”にノミネートされたそ
うです。05年2月の発表が楽しみです。そうすると河谷君はグラミ
ー・ノミニーの端くれということになるのかな? すごいもんです。
あ、それとPP&Mの久々の新作“In These Times”(右写真)もぜ
ひどうぞ。彼らがいまも現役であることを伝える、いいアルバムで
す。
In These Times









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